案ずるより産むがやすしとは・・・,このことか。彼曰く、「うちの会社は、いかにして施主の要望に応えることができるか? そのことを主目的に於いている。私は現場監督にはなれないかもしれないが、営業の者を紹介するので相談してみてくれ、かなりのことは聞いてくれると思うよ・・・?」とのことだった。
希望を持ち続けつつ不安な思いでM社の営業の人を数日待った。何故なら、これまで2社と話がまとまらなかったのは木窓のことだけではなく、基礎は長女の嫁ぎ先が基礎が専門の土建業だったのでそこにやってもらうこと、プレカットは秋田の製材所をやってる友人の紹介で秋田でやること、外壁材や内壁材を含めた一切の木材は私の方から持ち込んだものを使うこと、という条件まで希望していたので、また前回と同じように断られてしまうのでは、という心配がぬぐい切れなかったからである。
果たして、私の条件を一通り聞いた営業の山口氏は、「わかりました。この条件を社に持ち帰って検討してまいります。 私一存で決めれる案件ではありませんので、社長の意見も聞きませんと・・・。最善の努力をしますので2~3日お時間をくださいませんか?」と言い、一回目の交渉は終わった。次の連絡が来るまでは気持ちは限りなく黒に近いブルーだったのは言うまでもない。
数日して山口氏が訪れ、「一つだけ当社の要望を受け入れてくれるならば、あとはすべて受け入れるという結論になりました。プレカットだけは当社のお願いしているところでやっていだだけませんでしょうか?何か不都合があった場合、秋田では何とも時間がかかりすぎて対応がしかねます…。」ということになった。尤もな話である。いつもやっている相手となら、いろんな無理も聞くだろうが、施主側の都合でのそれはリスクが大きすぎるのだろう。その他が受け入れてもらえるならと、M社の条件を受け入れた。そんなバタバタの中でこの建築プロジェクトはスタートしたのだが、九分九厘話が進んでいた秋田のプレカットの交渉を白紙に戻すのが、次の難問だった。
ところが、どんな代償を払うことも覚悟して秋田のDプレカット社の伊藤氏に平身低頭でこれまでのいきさつを話したところ、彼はいとも簡単に「成田さん、我々はお客様が契約書にサインをする瞬間まで、営業と考えています。土壇場で契約が元に戻ることがこれまでにも何回かありました。従って事情をお聞きしましたところ、納得ができない事情でもありませんので、今回のことは縁がなかったということで大丈夫です。」といってくれるではないか。これにはさすがの私もあっけにとられてしまった。これまでにかかった経費はお支払する、といくら言っても、「次に縁がありましたらお願いします!」の一点張りなのである。もともと子供じみた勢いだけで事を進める自分としては流石に堪えた。鳥肌が立つほどありがたく感動した。相手側の立場に立って判断するというのはなかなかできるものではない。この件があって以来、私は伊藤さんとの「次のご縁」をいつか必ず実現しようとを固く心に誓っている。