できることから、でも一番伝えたい主目的

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繰り返しでしつこいようだが、晩年のジャックは、世界平和と、地球環境の正常化が進まないことに心を痛めていた。ただ、このことは言葉ではなかなか伝わりにくいので記念館そのものがメッセージを発するものを作れないかと考えた。分かりやすく言うと、例えばCO2削減が叫ばれる中、思いはあってもなかなか思い通りに進まない現状をどう打破して、ジャックのメッセージとして発信すればいいだろう?それこそイルカ的発想?で考えるとしたらどうすればいい?と思案していたところ、”これだ…!”と思えることにぶち当たった。

 きっかけは高齢になってきた私の妻の両親を近くに呼びたいという奥さんの何気ない提案だった。長年住み慣れた土地を離れるのは勇気がいることだし、果たして近くに来てくれるかは自信がなかったけれど、妻は「家を建てたよー・・ 、と言えば来るかもしれない。もし来なければ私たちが住んで今住んでるところは売るなり貸すなりしてもいいと思う・・・。」と言う。聞いた瞬間に私はひらめいた。長年考えていた、ジャック・マイヨールのメッセージを発信する記念館のようなものを作るときの参考になるように,できるだけ地球環境に負担を与えないことにこだわって家を作っててみよう。ストレートにいうと、化石燃料に頼る生活を少しでも軽減できる建物の実践・・・。具体的にどのように表現すればよいのか? 誤解を招くようなことかもしれないが、今回建てた両親のための家の作り方を見ていて感じたことがいくつかあって、なるほどと思った最大の成果は断熱のことだった。 

 私自身これまでは、理屈では解っていても実際一つ一つの断熱技術に関する効果がどれくらいのものかについては無知で、すべては建設業者にまかせっきりだったので、言われたことをうのみにするだけでだったし、実のところ業者に言われれば、「そんな気がしなくもないなー…。」という意識を超えることはなかった。しかし今回は素人ながら自分の思いつく、それこそ専門家に言わせれば子供じみた要求をハウスメーカーのM社に納得してもらいスタートした。 とはいえ、M社にたどり着くまでに2社も断られ、しかも「あまりにも子供じみた要求で、ばかばかしい・・!」と、鼻で笑われるような対応にはさすがに心が折れそうになったが、子供にでも解るシンプルな説明でないと納得できなかったので何とかくじけず、M社までだどりつけたのはラッキーでもあった。

奥さんの要望は「できることなら、金属サッシではなく木窓枠を使った家にしたい…。」と言うことだったので、条件の第一番にこのことを業者に提案したら、これが問題だった。どの業者に聞いても「木窓は雨仕舞が悪いうえ値段がサッシの3倍近くするからやめた方がいい」と似たような説明をされた。限られた予算で木窓を取り付けるのは無理だ!ともいわれたが、それに対し我が妻は、「雨仕舞が悪くて水が入ってきても拭き取るし、ほこりが入ってきたら掃除をするから大丈夫…。」と言う。予算のことになると、「一つでも二つでも良いからつけたい‥!」と言って、そこは妥協しない。そんなこんなで、家の建設を相談した二社に手を引かれてしまったのだった。二社とも地元の業者だっただけに何ともばつが悪い。

 このままでは果たして目的の建物は建つのだろうか?精神的に少々追い詰められた私は、37年前に自宅を設計してくれた美和建設の安西氏に相談に行った。37年も経つのにトラブルらしいトラブルもない家を建ててくれたことへの信頼もあって、お礼かたがたと言うつもりで出かけたのである。だが、狭い地域では、ごり押しともとられかねない私たちのうわさは多少知られているのかもしれないという心配もあった。事実、ある業者には最後は喧嘩腰で「そんな要望はどこもうけいれてはもらえないよ・・!」と言われていただけに、まさに背水の陣と言う心境だった。

 30数年ぶりに安西氏を訪ねてみるとすでに看板は下ろされており、奥さんが出てこられて「10年ほど前に会社をたたんで、今は地元の建設会社の現場監督として働いていますよ。ちょうどここのところは近くの現場ですのでそちらに行ったら会えると思いますよ。」と言って住所を書いて渡してくれた。そこで、神にも縋る思いでその足で安西氏のいるという現場に向かった。

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