エピソード4 鴨川シーワールドの思い出

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彼はいつも、”イルカやクジラの精神構造は我々人間よりも100年も200年も進化しているんだ”。と言ってはばからなかった。それはどういうことなのだろうとよーく聞いてみると…、”イルカやクジラの骨は今から6千万年前のものが見つかっている。

しかし我々人類のものは高々4~5百万年前のものだ。要するに、イルカやクジラの方がはるかに長く地球上に現れているのに、必要以上の自己主張はしないし、地球が一つの生命体であるという観点からみれば,我々人間より遥かに、自然と共生することの大切さ、バランスを守るという意味においては思慮深い・・・!“と言うのだ。

言われてみれば確かにそうだ。 ジャックの一貫した考えの中には、47億年もかけてやっと美しい地球という奇跡の星を作り出した母なる地球の並々ならぬ努力を、賢いと錯覚している我々人間こそが思い上がりの判断で壊しているというのだ。

ジャックが尊敬かつ憧れていたイルカを見に行きたいと言い出して、館山に足を延ばしてきていたあの頃、鴨川シーワールドにイルカやシャチがいると聞きつけて見に行くことになった。一般の観客と一緒に静かにみてくるというのなら何の問題もないのだが、彼にはその先の目的があるということを、12日間の旅をしたときにいやというほど経験していた私は、なぜか気が重かった・・・。 どういうことかと言うと、良い意味で子供と一緒で、目的を決めたら周りのことはあまり考えずに、そこに向かって真っすぐ突き進むという性格を嫌というほど思い知らされていたからである。私の立場としては、反論できるはずもなく、無理難題がどんな形で降りかかってくるか・・・? その事を考えると気が重かったのである。

案の定、問題はすぐに起きた。 シャチのプールに行くと、プールサイドにある部屋からガラス越しにシャチが泳いでいるのが見える。 その窓に近ずいていくとシャチも何となく近ずいてきて、ジャックが突然シャチに語り掛けたのである。 それはまるで憧れの人に語り掛けるように・・・。“はじめまして!私はジャックです。私はあなたと友達になりたい、一緒に泳いでいただけますか?” 確かそんなことをまるで人間に話しかけるようにである。 それから当時のシーワールドの責任者の祖一さんに交渉し始めたのである。 当然のことながら祖一さんはやんわりと断った。 理由は・・・芸能人や、歌手のイメージ写真の作成のためにシャチの背中に乗っているような絵が欲しいとの依頼が何度かあったが、相手は自然界で成長した大きな生き物、調教師ならいざ知らず、一般の人が必要以上にシャチに近ずいて、彼らが野生本能を呼び起こさないとも限らないしそこのギャランティができないから申し訳ない・・・。そんな柔らかな断り方だったと思う。 普通はそこで、(わかりました。そうですよね!)で終わるところだが、ジャックはそうはいかない。 ありとあらゆる角度から、これもまた相手が(それもありかな)と思うような、気長で情熱的な持論を滔々と展開する。 結局相手の方が根負けするような形でプールの中に入る許可を得てしまった。

これに近い話は小笠原でもあった。 マッコウクジラを見に行った時、子ずれのマッコウクジラが出たとき、一緒に泳ぎたいとガイドの高橋氏に交渉したときに、子供ずれのクジラ、しかも歯クジラは狂暴になることがしばしばあるので、一緒に泳ぐことは許可できないと断られてしまった。 その時のジャックの交渉が振るっていた。 (君には迷惑はかけない。私がクジラに近ずいて行くところを、友人の成田が一部始終ビデオに撮るから、もし私がクジラに食べられてもそこも撮影されているから、それを売り込めばジャック・マイヨールがクジラに食べられる衝撃的シーンは大スクープ映像として高く売れる。それを成田と君が半々に得られる権利を私が誓約書にサインする。)“これでもダメか? 確かこんな交渉があったと思う。 高橋氏は笑いながら承諾した。付け加えておくが、あの時成田も一緒に犠牲になるかもしれないという話は一切なかった?

話を戻そう。 結局私もビデオを持ってプールに入ることになり、あの時の怖さと言ったら、経験したものでなければ分からない? プールの中は自分の体を制止するのが困難なほど早い水流があり、私には必死な時間帯だったが,当のジャックはシャチとの交友をことのほか楽しんでいたようだ。 祖一さん、あの時は本当にご迷惑をおかけいたしました。

ジャックの右が祖一さん
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